ページの本文へ

Hitachi

公益財団法人 日立財団公益財団法人 日立財団 日立財団グローバル ソサエティ レビュー日立財団グローバル ソサエティ レビュー

論文

多文化共生とコミュニケーションテクノロジー
―外国人労働者1,000万人時代に向けて―

コチュ オヤ 写真
株式会社Oyraa 代表取締役社長
一般社団法人外国人雇用協議会 理事
コチュ オヤ
トルコ生まれ。大学で電子通信工学を専攻し,2006年に日本のオムロン株式会社のインターンシップに応募し,初来日。滋賀県水口町(現・甲賀市)で暮らすなかで日本文化に心酔。大学卒業後,東京大学の研究員となる。13年に大学院工学系研究科を修了後,日本でボストンコンサルティンググループに就職。17年,株式会社Oyraa を創業し,153か国の言語の通訳者を即時に呼び出せるアプリを開発し話題となる。18年,日本に帰化。現在,株式会社Oyraa 代表取締役社長のほか一般社団法人外国人雇用協議会 理事も務める。

外国人労働者1,000万人,地域によっては「5人に1人が外国人」という時代がすぐそこまで迫っている。本稿では,多文化共生社会実現に向けて我々が意識すべきことをコミュニケーション×テクノロジーの観点から考察する。日本語も在留外国人に多い東南アジア諸国の言語も世界的に見て「希少言語」とされるなか,AI通訳の現在地と将来見立てに触れながら,現時点での最適解について言及する。また,真の多文化共生には外国人労働者の職場環境の改善,とりわけ双方向コミュニケーションの確立が欠かせない。どのようにこの課題に取り組むべきかを,本稿を通じて経営者各位に共有したい。

1. 共生とコミュニケーション

「ちゃんと言わないと分からないでしょ!」

日常生活の中で一度は耳にしたこと,あるいは発したことがある台詞ではないだろうか。たとえば突然癇癪を起こす我が子に両親が投げかけるシーン。その様子を思い起こしてみると,この言葉は検証するまでもなく正しいことがご理解いただけることと思う。自分自身でない他者に対しては「言葉にしなければ伝わらない」のだ。

多文化共生にも同じことがいえる。「国籍や民族などの異なる人々が,互いの文化的ちがいを認め合い,対等な関係を築こうとしながら,地域社会の構成員として共に生きていくこと」(総務省)と定義されているが,ちがいを認め合うために何よりもまず必要なのは双方の主義主張が相手に正しく伝わること,言い換えると「適切にコミュニケーションが取れていること」である。

JICA緒方貞子平和開発研究所によるシミュレーションによると,2040年時点でのGDP目標を達成するには,自動化・省人化に向けた設備投資を促進した場合で688万人,設備投資が想定通り進まなかった場合には1,000万人以上の外国人労働者が必要となると試算されている。2023年時点で外国人労働者数は205万人なので,向こう15年で5倍以上に増える可能性がある。仮に最小の688万人に留まったと仮定しても,2040年には東京に加え東海・北陸・中国地方などの14都府県で外国人労働者数が対生産年齢人口比10%を超えると見込まれている。そしてこれらの数字はあくまで外国人“労働者”の数であり,帯同家族等も含めれば在留外国人の数はさらに増加し,地域によっては「5人に1人が外国人」という世界が目の前に迫ってきているといえる。

ペリー来航から170年,制度としての鎖国が撤廃された後も日本は世界的に見て言語や国民性による障壁が高い「閉ざされた国」として認識されてきたが,いま急速に変化を余儀なくされている。私達はもはや外国人とのコミュニケーションを避けられない。

2. テクノロジーの時間差

有史以来,テクノロジーは時間と距離の壁を次々と打破してきた。鉄道や飛行機は物理的な距離を縮め,インターネットや衛星通信技術は「世界中の人が同時に同じ映像を観る」などといった体験を実現した。AIにより様々なタスクの生産性が飛躍的に向上し,過去と現在,そして未来とでは24時間の中身も大きく変わることになるだろう。

一方で,「テクノロジー自体の普及の時間差」について言及されることはあまりない。新しいテクノロジーが生まれるたび世界が変わるかのように謳われ期待されるが,実際はそのテクノロジーが優れていればいるほど実装条件やパフォーマンス発揮条件が厳しく,完成した瞬間に世界中の人が広く遍く享受できるなどということはありえない。テクノロジーの普及には時間差があるのだ。

1)言語領域で顕著となる時間差

特に言語の領域ではその時間差が顕著となる。たとえばAIによる翻訳・通訳を実現するために必要となるLLM(大規模言語モデル)やコーパスデータは,言語ごとに存在しているデータ量が圧倒的に異なる。英語やスペイン語,中国語といった話者の多い言語については既に大量のデータが存在しており日々機械学習の精度が高まっているが,日本語を含めた希少言語についてはデータ量が圧倒的に不足しておりなかなか精度が実用レベルに至っていない。高精度通訳サービスとして2017年にリリース(日本語対応は2020年)された『DeepL』は翻訳業界はもちろんビジネス・文学あらゆる領域で多大な影響をもたらしているが,2024年現在30言語強にしか対応していない。世界には7,000以上の言語があり1,000万人以上のネイティブスピーカーがいる言語だけでも100言語程度あると言われているなか,DeepLを未だ利用できていない人がまだまだ多く存在することが分かる。

『ChatGPT』を始めとする Generative AIも登場以来驚異的なスピードで世の中に浸透し様々なシーンで活用されいることは既知の事実だが,実は2023年にはChatGPTアプリが音声通訳機能を実装し,コミュニケーションの常識を変えるものとして業界内が色めき立った。しかし,筆者の経営している株式会社Oyraaが音声通訳を生業としていることもあり,2024年8月に複数名のプロの通訳者とともにChatGPTの音声通訳性能の検証を行ったところ,改めてテクノロジーの時間差について強く実感することとなった。

2)日本語×〇〇語におけるAI通訳の現在地と見通し

ChatGPTの音声通訳は主要言語同士においては非常に高い性能を発揮した。英語とスペイン語での会話を通訳させたところ,プロの通訳者曰く「日常会話についてはパーフェクトといえるレベル」とのことであった。もちろん会話内容をあえて行ったり来たりさせたり3名以上での会話にしてみたりといったより“実践的な”シチュエーションにおいては粗が目立ったものの,単純な言語変換能力でいえばかなりの水準に達していると評価できた。

一方で,希少言語の通訳においてはまだまだと言わざるを得ない結果だった。たとえば日本語とベトナム語(ベトナム人は在留外国人数としては中国に次ぐ2位,外国人労働者数としては1位であり,ベトナム語は日本人にとって今後の最重要言語のひとつ)との会話をChatGPTに通訳させたところ英語-スペイン語に比べて非常にクオリティが低く,日常会話レベルでも実用性に乏しいものだった。さらに,近年日本で急増中のネパール語に至ってはまったくの非対応で,ChatGPTはチャレンジすらせず「申し訳ありません。日本語とネパール語の通訳には対応しておりません」と機械的に回答するだけであった。

これらのことからも分かる通り,言語コミュニケーションにおいて日本および今後急増する在留外国人がAI通訳を始めとしたテクノロジーの恩恵を享受できるまでにはまだまだ時間を要すると予想される。その日が数年程度で訪れればまだ良いが,Tech GiantsやOpenAIが希少言語にまでテクノロジー・サービスを拡張させるだろうと楽観することはできない。AIに学習させるデータセットを用意することは莫大なコストを要するため,彼らからすると希少言語に対応させていくことは事業戦略上ROIが合わないと判断する可能性が高いためだ。もしかすると,ChatGPTが日本語とネパール語の音声通訳をしてくれる日は来ないかもしれない。

3. テクノロジーは文化を壊すのか,守るのか

1)消えゆく言語

2022年2月17日,チリの先住民族「ヤーガン族」の女性が93歳で亡くなった。亡くなったクリスティナ・カルデロンさんは国が認める最後の純血のヤーガン族であり,民族独自の言語「ヤーガン語」の最後の話者でもあった。言語とは話者がいればこそであり,話者がいなくなれば当然その言語は消滅する。彼女が亡くなったこの日に,ヤーガン語は世界から消滅したことになる。

実は言語の消滅は珍しいことではない。少数言語研究団体であるSILインターナショナルの発表によると,2022年2月時点での世界の言語数は7,151であり,2021年2月からの1年間で4言語が消滅したとしている。また国際連合教育科学文化機関(UNESCO)が2010年に発表した『Atlas of the World’s Languages in Danger』は,1950年から2010年までの間に230もの言語が消滅したと報告している。日本においても例外ではなく,たとえばアイヌ語は2017年時点で話者が5名にまで減ったとされ,現在保全の取り組みがなされている。

かつては侵略からの統治・統合が言語の消滅の主因であったが,現在ではテクノロジーの発展を背景に経済圏が著しく拡大し,経済合理性に基づいて人々が(望むと望まざるとに関わらず)主要言語圏に取り込まれていることが言語消滅の加速化に一役買っている。誰もが同じ言語を話せばコミュニケーションコストは下がり,ビジネスや経済活動,社会システムの運用も非常にスムーズになることは想像に難くない。英語が公用語となった国において子どもたちが英語でない従来の母国語を学ぶことは将来的な経済合理性の観点からすると無意味といえる。

2)文化の基盤としての言語

一方で,筆者にとって言語とは単なるツール以上の意味がある。筆者はトルコ出身で大学生のときに日本へ留学,その後日本で就職をした。日本での生活は20年弱になる。世間一般の外国出身者に比べれば日本語を上手く扱えるし日本語ネイティブの方々に日本語スキルを褒めていただくことも多いが,筆者自身は自分の日本語をネイティブレベルと感じたことは一度もない。ビジネスで必要十分な程度には日本語でのコミュニケーションができているが,未だにところどころで知らない慣用句に出くわしたり,言葉に対して日本語ネイティブの人とは違う感覚を得ることがままある。約20年日本語中心の生活をしていても,生まれたときから日本語で生きている人たちとは根底のところで違う価値観・文化が形成されているのだ。逆に,たまにトルコに帰国した際には子どもの頃当たり前に感じていたことに少し違和感を覚えることもある。これは日本語・英語での生活をしていく中で自分の価値観・文化が少なからず当該言語圏の影響を受けているということだと理解している。

このように言語とは自身の文化(言い換えれば思考や価値観,感性のルーツ)に深く根ざしているものであり,経済合理性を理由に安易に淘汰されるべきものではないと考えている。「いますぐ日本人全員が英語を話せるようになり,社会システムもすべて英語で運用されるとしたら嬉しいか?」と問われたときに,両手を上げて歓迎する日本人は実はそこまで多くはないのではないだろうか。

3)テクノロジーによる文化保全と多文化共生のあるべき姿

テクノロジーによる経済圏の拡大が希少言語の危機を招いていることは無視できない事実である。一方で,AI通訳等の言語領域でのテクノロジーの発展により各人が母国語を話しても適切な意思疎通ができるようになれば,過度な文化の平準化とそれによる叡智の埋没を抑制することができるかもしれない。それぞれの言語はその地で数百年・数千年と暮らしてきた積み重ねがあり,たとえば創薬業界では土着の民族が独自の言語を用いてその地の植物を西洋科学とは比較にならない解像度で細かく分類していることに着目し,民族植物学というアプローチからこれまで多くの革新的な新薬を開発してきた。文化が異なるということは世界の見え方が異なるということであり,この違いを認め合うことはもちろん,それを上手く掛け合わせることで単一の世界の捉え方ではたどり着けなかったイノベーションを起こす,それこそが真の多文化共生と言えるのではないだろうか。

4. 通訳アプリ『Oyraa』が目指すこと

筆者が開発・提供している通訳アプリ『Oyraa』は,いわゆるAI通訳ではなく,「人間の通訳者を徹底的に利用しやすくしたプラットフォーム」である。153言語2,700名以上の通訳者グローバルネットワークを活用し,特に日本語×〇〇語の言語ペアについては24時間365日いつでも即時に通訳者にアクセス(コール)でき,1分単位で言語サポートを受けることができる。世界中の通訳者のスキマ時間を活用する「通訳者のUber」のようなサービスであり,従来プロフェッショナルサービスとして非常に敷居とコストが高かったプロによる通訳を民主化することに成功した。特に外国で暮らす個人が日常生活において直面する言語の壁(役所,ライフライン,銀行,病院,不動産 など)を取り払うことに貢献している。

筆者は,このOyraaのモデルは今後の多文化共生にとって重要な役割を担うと確信している。人間の通訳者をベースにしているOyraaは,特にAI通訳が未発達な希少言語において多く利用されている。1分120~150円程度のコストが発生するが,AI通訳を利用できず困っている人々にとって,言語の壁を取り払う必要経費としてはリーズナブルであると評価していただいている。円滑なコミュニケーションの実現には“伝わる”手段をとることが大前提なので,AI通訳が実用レベルに進化するまでは人間の通訳者へのアクセシビリティを高める方向にテクノロジーを進化させることが重要となる。

さらに,OyraaはAI通訳の進化にも貢献することができる。Oyraaアプリ上で行われるユーザーと通訳者との会話の音声データがサーバーに蓄積されている。つまりOyraaはサービスを提供することで「収益を上げながら」希少言語の教師データを収集しているのである。先に述べた希少言語のデータ収集の相対的なROIの低さを,Iを引き下げることで克服することができる。足元では人間の通訳者ベースの価値提供で実需に応えつつ,中期的に希少言語におけるAI通訳の社会実装を目指していく。

5. 多文化共生の鍵は職場にあり

多文化共生について語られるとき,「相互に寛容な心をもち歩み寄りましょう」といった言説をよく目にする。それ自体は間違いではないものの,不寛容さを個人の心根に起因させていると本質を見失うのではないかと気にかかる。筆者は,寛容/不寛容は各人の気質ではなく“状態”によって左右されるものであると考えている。普段寛容な人がストレス環境下においてイライラし不寛容になるというケースはよくある。そして,一般的には家族・友人と過ごす時間や趣味の時間よりも労働(職場)での時間においてストレスを抱える人が多いと思われる。

1)外国人労働者の実態

外国人労働者の20%程度を占め就労資格として最も人数の多い「技能実習生」は,毎年一定割合が最長5年の技能実習期間中に失踪する。2023年は9,753人が失踪し,1万人に迫る過去最多の数字を記録した。失踪者は不法滞在者扱いとなり,多くは同じ境遇にある同郷コミュニティに属して生活をする。内職のような仕事でなんとか食い繋ぐ者もいれば,違法就労や犯罪に手を染める者も少なくない。せっかく日本へ働きに来ているのに安定した就労環境と収入を得ることができなければ,どうしても焦燥感に駆られ不寛容さが顔を出すだろう(技能実習生の8割は来日前に借金をしている)。当然,真っ当に日本社会に溶け込むことは難しくなる。そうした人が今後も増えれば,日本人もまた在留外国人全体に対して悪い印象を抱き,不寛容になっていくだろう。多文化共生を目指すうえで,外国人労働者へ健全な就労環境を提供することで彼らの焦燥感を取り除き,安心して地域社会・地域経済の一員になってもらうことが非常に重要となる。

制度を悪用し計画的に入国・失踪するケースや劣悪な就労環境からの脱走というケースもあり,政府は技能実習制度の廃止を決定,2027年より育成就労制度という新たな制度を開始し構造的な不の解消に向け動き出している。一方で,制度が新しくなろうと個々の受入企業で正しい運用がなされなければ何の意味もない。育成就労制度は「人材を確保すること」を目的のひとつと明記しているが,それを安価な労働力確保という意味に捉えてしまうと非常に問題である。替えの効くチープレイバーとして外国人労働者を扱うということは,生産性向上への投資が行われないこと,指示に従い黙々と作業することだけを求めるような一方的なコミュニケーションを是とすることを意味している。

しかし,そんな運用は持続可能性がなく早晩回らなくなるだろう。たとえ違法・劣悪な労働環境とまではいかないとしても,自分が単なる道具のように扱われる環境に身を置き続けたいという人はいない。今後は外国人労働者の転職ハードルは引き下げられていく方針であるので,企業,特に中小企業は今後外国人労働者に“選ばれる”立場になっていくことを肝に銘じる必要がある。

2)人手不足解消に向けた外国人材活用の要諦

ではどうするべきか?大きくは2つのステップで外国人労働者との関わり方を見直すべきというのが筆者の考えである。

ひとつめは,外国人労働者活用のロードマップを描くこと。新卒社員と同程度とまで言うつもりはないが,外国人労働者をいかにステップアップさせるか,そのために何を指導し何を経験してもらうかを数カ年計画として策定する。そうすることで提供すべき環境・機会が明確になる。一度型を作ればそのプロセスを経験した先輩従業員が毎年入社する外国人労働者に同様の取り組みを行うことができ,効率的に運用できるようになるだろう。在留外国人はそれぞれ自国出身者のコミュニティで情報交換をしているため,いち早く良いサイクルを回して風評を高めれば,外国人労働者から選ばれる企業となり恒常的に人手不足を解消することも不可能ではない。

ふたつめは,最適な双方向コミュニケーションを確立すること。こちらは特定技能・技能実習生に限らず,ITエンジニアのようないわゆる高度人材の定着にも非常に重要である。日本最大級の外国人材転職プラットフォーム『NINJA』を運営する株式会社グローバルパワーが1,300名の外国人材を対象に行った調査によると,外国人材の退職理由として「自分の希望する仕事ではなかった」「給与・報酬が少ないから」「契約期間が満了したから」が上位に並び,特に「自分の希望する仕事ではなかった」は全体の1/3にのぼる。これは企業と外国人材との間で十分な擦り合わせが行われていない,コミュニケーション不全が発生していることを示唆している。

3)要所での母国語同士のコミュニケーション

コミュニケーション不全といっても,実は業務自体は言語能力によらず円滑に回っているケースも多い。ブルーワーカーに対する業務指示はやさしい日本語で事足りたり同郷の先輩従業員が指導したりする,高度人材は業務コミュニケーションがSlackなどのチャットメインで翻訳ツールを使いながらどうにかできる,といった具合だ。問題となるのは,本来母国語同士で正確に行われるべきシチュエーションにおいてもカタコトな言語や低品質な通訳ツールでコミュニケーションが行われてしまっている点だ。例えば採用面接,事業部の方針説明,人事・評価面談,契約まわりなど,認識齟齬が重大な影響を与えるシチュエーションがいくつかある。企業目線で言うと,こういった場で正確に情報や意図を伝え,また外国人材から意見や要望を吸い上げることが外国人材の活躍・定着に直結する。単なる情報伝達ではなく対話を行うことで職場環境を最適化させ外国人材の生産性を大きく向上させることができる。生産性が上がれば外国人材に適切な投資をすることができるようになり,さらに人材が集まってくる…良いことづくめである。

職場環境が改善されれば,外国人労働者に経済的・精神的な安定(ゆとり)が生まれる。ゆとりは他者尊重に最も必要な要素であり,それが多文化共生の実現に大きく貢献するだろう。

さいごに

本稿では,コミュニケーションテクノロジーの観点から多文化共生社会の実現に向けたアプローチについて私見を述べさせていただいた。日本語を含む希少言語においてはAI通訳によるコミュニケーションの(ほぼ)完全なシームレス化には10年単位の時間を要すると考えられる中,きたる外国人労働者1,000万人時代に向けては,実効性のあるテクノロジー,サービスの力を借りながら個々の事情に応じた最適なコミュニケーションの在り方を見極めることが求められる。

そして,仕事が人生の少なくないウェイトを占めるいま,文化を異にする者同士が歩み寄るだけのゆとりを持つためには,外国人材の就労環境の健全化が欠かせない。外国人材を雇用するあらゆる企業が,外国人材との最適な双方向コミュニケーションを確立してくれることを切に願う。当社も『Oyraa』を通じてその一端を担うことができればそれに勝る喜びはない。

[参考]

JICA緒方貞子平和開発研究所『2030/40年の外国人との共生社会の実現に向けた調査研究―外国人労働者需給予測更新版―』
日テレNEWS:2022年2月17日『チリ「ヤーガン語」話せる最後の1人 93歳で死去』
SILインターナショナル『Ethnologue, Language of the world:Welcome to the 24th edition』
UNESCO『Atlas of the World’s Languages in Danger』
北海道新聞:2024年5月18日『「消滅危機」のアイヌ語 復興できるか<タネ オカアン ウㇱケ~アイヌ新法5年>』
日本経済新聞:2024年9月3日『技能実習生の失踪最多,昨年9753人』
株式会社グローバルパワー『【調査結果公開】外国人材1,300人の退職理由は?日本人材との比較と要因』
Vol.4に戻る