外国人が増加すると治安が悪化するのか? 犯罪統計による検証
1. 外国人の犯罪について見ていく際の注意点
外国人の増加に伴って決まって懸念されるのが治安の悪化,特に犯罪の増加である。今回はこの点について,データをもとに見ていきたい。
日本人の犯罪と異なり,外国人の犯罪について見ていく際に留意すべき点は,その発生メカニズムの違いである。例えば,「警察白書」(国家公安委員会・警察庁 2024)においては,外国人犯罪を論じるにあたり,永住者等,日本への定住性が強い人たちではなく,短期滞在など一時的に日本に滞在する「来日外国人」に焦点を絞っている。またその際,そもそも犯罪を目的として来日するプロの組織犯罪の一つとして扱っており,一般的な旅行客や定住外国人とは明確に区別している。
そのため,外国人の犯罪率について分析する際には,こういった「プロ集団」とそれ以外の一般の人たちを区別して論じる必要がある。このことは,海外にいる日本人についても同様である。近年増加する「匿名・流動型犯罪グループ」のように,犯罪のためにあえて海外に拠点を構える日本人もおり,そういった「プロ集団」は,留学や海外駐在,国際結婚などの理由で海外に居住する一般の日本人とは明確に区別されるのと同じことである。
本稿ではこういった「プロ」の犯罪組織による犯罪とそれ以外を可能な限り区別して論じる。
2. 分析の方法
用いるデータは警察庁が公開している犯罪統計資料1である。同資料においては,外国人の犯罪を外国人総数,及び「来日外国人」によるものに分けて表章している。前者は日本国内で発生した刑法犯の内,被検挙者が外国籍である者の全てについて,後者はその内,「永住者」,「永住者の配偶者等」,及び「特別永住者」を除いたものについてである。さらに本稿では検挙された外国人の内,在日米軍関係者,及び適正な在留資格を有さない非正規滞在者による犯罪を除いて分析を行った。これは,在日米軍関係者はどの程度の数が日本に居住しているのかといったデータがないこと,また,先述したプロの犯罪組織による犯行の多くが,非正規滞在の形をとっているとされることから,そういったプロによる組織的犯罪を分けて分析するためである。
本稿では,刑法犯全体,及びその内,特に殺人,強盗,放火,不同意性交等といった凶悪犯に分けて分析を行った。この他,刑法以外の法律や条例に違反する特別法犯というカテゴリーもあり,入管法違反等はこちらに含まれるが,今回の分析では殺人や強盗など,より重い犯罪であり,人々の治安意識に直結すると考えられる刑法犯に絞って分析した。
分析に当たっては,検挙件数,及び検挙人員の内,検挙人員を用い日本人,外国人それぞれ人口1,000人当たりの検挙人員を犯罪率として算出した。なお,外国人が総人口に占める割合が小さい(約3%)ことから,総人口を日本人人口と見なした。
3. 日本人と外国人の犯罪率の違い,及びその特徴
まず,刑法犯における内訳(凶悪犯,粗暴犯,窃盗犯,それ以外)を見ると,日本人と外国人の間に大きな違いはない(図1)。日本人,外国人ともに窃盗がそれぞれ46.7%,43.4%と多く,粗暴犯が27.2%,27.9%,その他が23.5%,25.0%とそれに続く。凶悪犯は2.7%,3.7%とわずかである。なお,先述したように警察白書によれば,外国人犯罪の特徴として共犯(組織的犯罪)の割合が高いことが指摘されており,その割合は刑法犯全体で外国人,日本人がそれぞれ38.7%,12.9%であるとされる2。

出所:犯罪統計(警察庁)
人口当たりの交通業過を除く刑法犯の検挙人員を見ると,日本人が1,000人当たり1.47人,及び外国人が2.39人となっている。また,殺人などの凶悪犯罪については,日本人が0.04人,外国人が0.08人となっている(図2)。

注:単位 人/千人
出所:犯罪統計(警察庁)等より筆者作成
これらを見ると,外国人の犯罪率が日本人よりも高いように見えるが,犯罪の発生率は日本人の間でも年齢によって大きく異なっており,特に20代で高い傾向が見られる(図3)。外国人の人口構成は日本人よりも20-30代の若年層に集中しているため,総人口に対する比率を見るだけではこういった年齢構造を反映した犯罪率の違いを見ることができない(図4)。

注:単位 人/千人
出所:犯罪統計(警察庁)等より筆者作成

出所:「人口推計」(総務省),及び「在留外国人統計」(出入国在留管理庁)より筆者作成
しかし,外国人の年齢別の検挙人員は公開されていないため,以下の手法により,日本人との相対的な犯罪率の水準を比較する。
日本人の年齢別,検挙人員は分かっていることから,まず,日本人の年齢別,犯罪率を計算する。次にこの値を年齢別の外国人人口に乗じることで,仮に外国人が日本人と同じ年齢別犯罪率に従った場合の検挙人員の推定値を求めることができる。この値を外国人の刑法犯検挙人員と比較することで,年齢構成について考慮した上での外国人と日本人の犯罪率のおおまかな比を知ることができる。
その結果,外国人の検挙人員の推定は6,870人となり,実績値は推定値の約1.3倍の9,004人となった(図5)。また,凶悪犯については推定値が234人であるのに対して,実績値は314人であり,推定値の約1.3倍であった。このことは,外国人の犯罪率は若年人口が日本人よりも多いという年齢構成の違いを考慮しても,なお日本人よりも高いことを示している。

出所:犯罪統計(警察庁)等より筆者作成
【年齢構成の影響を考慮した犯罪率の分析方法】
推定検挙人数(年齢別)=外国人人口(年齢別)×年齢別検挙率(日本人)
外国人/日本人の犯罪率の比=検挙人数(実績)/推定検挙人数
4. どの程度の差なのか?
以上を踏まえるならば,外国人の犯罪率は,日本人よりも若干,高いように見えるが,この結果はどの程度の意味を持つのであろうか。
そのヒントになるのが,まずは日本人の年齢別の犯罪率である。先ほど見たように日本人の刑法犯全体で見た犯罪率は1.47人/千人であるが,年齢別に見た場合,もっとも低い70歳以上の1.11人/千人から20-24歳の2.75人/千人まで幅がある(図3)。
外国人全体の犯罪率は仮にこれを先ほど求めた値に基づき,日本人の1.3倍とした場合,1.93人/千人となり,日本人の30-39歳の1.94人/千人とほぼ等しい。凶悪犯についても刑法犯全体と同様,日本人の約1.3倍と考えれば,0.05人/千人となり,日本人の40歳代の0.04人/千人にほぼ等しい値となる。
また,年齢といった個人的属性ではなく地域的な違いに目を向けるならば,都道府県別の犯罪率の違いも参考になる。都道府県ごとの犯罪率を見ると,もっとも低い岩手県の0.89人/千人から,もっとも高い兵庫県の2.04人/千人まで約2.3倍の開きがある(図6)。凶悪犯に限ってみれば,もっとも高い大阪の0.07人/千人から,もっとも低い徳島県の0.01人/千人まで5.2倍程度の開きがある。

注:単位 人/千人
出所:犯罪統計(警察庁)等より筆者作成
外国人の犯罪率はもっとも高い兵庫県よりも低く,和歌山県の1.91人/千人にほぼ等しい。凶悪犯について見ると,大阪府や東京都よりも低く,岡山県とほぼ同程度である。
このように見るならば,外国人と日本人の犯罪率の違いは日本社会の中にすでにあるばらつきの中に優に収まるものであり,誤差の範囲といってよいものといえるだろう。
5. 外国人の増加は治安の悪化にはつながっていない
次に日本人と外国人の犯罪率の違いを見ていく上で重要な点として,そもそも,日本人の犯罪率が非常に低い上に,さらに近年,趨勢的に低下する傾向があるという点を指摘しておきたい。
日本人の犯罪率の推移を交通業過除く刑法犯全体とその内の凶悪犯に分けて見ていこう(図7)。その結果,日本人の犯罪率は2004年に3.04人/千人とピークを付けたあと,次第に低下し,2022には1.36人/千人と底を打ち,2023年には1.47人/千人となっている。凶悪犯について見ると,2003年に0.07人/千人とピークを付けたあと,刑法犯全体と同様に緩やかに低下し,2022年に0.03人/千人と底を打った後,2023年には0.04人/千人となっている。

注:単位 人/千人
出所:犯罪統計(警察庁)等より筆者作成
このように日本人の犯罪率が趨勢的に低下している場合,外国人の犯罪率に変化がなくても,相対的に高く見えることも考えられる。
そのため,先ほどと同じ手法で年齢構造の影響を除去した値によって,時代による変化の影響を取り除いて比較したのが以下の結果である。
仮に2005年の日本人の犯罪率に従った場合の2023年の外国人の犯罪率の推定値を求めると,実績値は推定値の1.05倍の8,583人となった(表1)。これは2023年の日本人犯罪率に従った場合の外国人と日本人の犯罪率の比である1.3と比べて0.25ポイントの低下となった。さらに2005年の日本人の犯罪率を用いて同様の推定を行うと,2023年の推定検挙人員数は12,474人となり,実績値は推定値の0.7倍となった。
刑法犯全体 |
実績値/推定値 |
内 凶悪犯 | 実績値/推定値 |
|
---|---|---|---|---|
2005年基準 |
8,538人 |
1.05 |
198人 |
1.6 |
2015年基準 |
12,474人 |
0.7 |
284人 |
1.1 |
出所:犯罪統計(警察庁)等より筆者作成
また,凶悪犯について見ると,2015年の犯罪率に従った場合には,実績値は推定値の1.6倍と2023年の結果よりも高くなったものの,2005年の値を用いた場合には同比率は1.1倍と2023年の1.3倍よりも低下した。
つまり,現在の外国人の犯罪率は過去の日本人の犯罪率と比較した場合,ほぼ同じ,あるいは低いという結果になった。
さらに外国人の犯罪率自体は外国人の受入れが進む中,低下する傾向が見られる(図8)。実際,1990年代と比較して,約130万人であった外国人人口は2023年には370万人を超えるまで3倍弱程度の増加を示したものの,外国人の刑法犯検挙人員数は1万2千人ほどであった1994年と比較して,2023年には9,726人3とむしろ減少している。この値は犯罪それ自体を目的として一時的に来日する犯罪組織による犯行も含んだ値であるが,それらを含めても,外国人による犯罪件数は減少しているのである。つまり,外国人緒増加は,外国人人口の増加は治安の悪化にはまったくつながっておらず,むしろ改善しているのだ。なぜ,このようなことが起きるのであろうか?

出所:犯罪統計(警察庁)等より筆者作成
6. なぜ,外国人の犯罪率は低下傾向にあるのか?
外国人の犯罪率が低下する傾向にある理由として考えられるのが,この間,進んだ外国人の定住化の進展と考えられる。本稿の冒頭で述べたように,外国人犯罪を見ていくにあたっては,留学や仕事,家族との生活のために生活する一般市民としての外国人と,犯罪自体を目的として組織的に活動する「プロ集団」との区別が重要である。警察の取り締まりなどにより,こういった組織的犯罪が減少していったと同時に,定住する外国人が増えたことで,外国人人口全体で見た犯罪率は低下していったと考えられる。
考えてみればこれは当たり前のことである。定住化の進展によって日本社会に生活の基盤ができる中,積極的に犯罪をするメリットがないのは,日本人と外国人の間に差はない。むしろ,罪を犯すことで在留資格が失われるなど,日本での生活の基盤が壊れることを考えれば,日本人よりも外国人の方が慎重になるのは当然ともいえる。
日本に中長期的に在留する外国人人口の増加に伴い,むしろ犯罪の件数が減っていることは,近年増加するこうした人々の犯罪率が目立って低いことを端的に示しているといえよう。
最近,大手マスコミも含め,外国人の増加による治安の悪化などの社会的コンフリクトの増大を危惧する報道が見られる。こういった報道の多くが特定の自治体の特定の出来事や事件に繰り返し言及することで,あたかも外国人の増加による犯罪が急増しているかのような印象を与えているといえるが,それは端的に言って間違いである。
事実は逆であり,外国人と日本人の犯罪率には実質的な差はない。また外国人の増加する中,刑法犯検挙人員はむしろ減少しているのであり,外国人の増加による治安の悪化といった現象は事実として存在しない。