ページの本文へ

Hitachi

公益財団法人 日立財団公益財団法人 日立財団 日立財団グローバル ソサエティ レビュー日立財団グローバル ソサエティ レビュー

編集後記

編集委員
唐沢 穣

編集委員の唐沢です。普段は名古屋大学情報学研究科で特任教授をしています。

「『多文化共生』に関連する数多くの学術分野,そして実務家や当事者の皆さんが,分野や職域を越えて知見や情報を交換・共有できるプラットフォームを築きたい。」こうした目的のもとに創刊された本誌も,すでに第4号の発行です。「科学技術×多文化共生」を特集テーマとする今回は,当初の目的にまた一歩近づいた内容になったと感じているのですが,いかがでしょうか。

私たちの多くが科学技術の進歩に期待するのは,それによってもたらされる「便利」や「安全」,ひいては「幸福」といったものでしょう。こうした科学技術の「光」の側面が,教育の場でどのように実現されてきたか,そしてその背景にある苦心や工夫の経緯と将来の問題を,川田・角田・額賀論文が目に見えるかたちで描き出しています。また,多文化共生といえば必ずついて回る「言語の壁」の切実さと,その克服を可能にする技術がビジネス・チャンスになり得ることを,実体験も織り込みながら記したコチュ論文にも,「光」を見ることができます。しかも,いくら技術が進歩しても,それを用いる人間の側の力量が問われることを,両論文が示しているのも興味深い点です。

一方,「影」の面を指摘するのが岸本論文です。時代の寵児であるAIの,そもそもの「しくみ」から予期すべき影響にまでわたる解説は,人文・社会科学の研究者をはじめ他分野の読者に対して,一緒にこの問題に取り組もうと呼びかけられた招待状のようでした。さらに,南澤氏を交えた「鼎談」であげられた具体的事例はいずれも,多文化共生の枠を超えて,より広範囲で多様な人々との共生にも共通する問題を含んでいて,広い視野をもった取り組みの重要性を感じました。

さて,私の専門分野である社会心理学では,「移民に対する偏見の心理学」や「ジェンダー・ステレオタイプの社会心理学」といった個別領域ごとに分析を行うというよりは,多様な社会問題に共通した一般的な心理的原理の解明を試みるといったアプローチが,しばしば採られます。私自身もどちらかと言うとそのタイプなせいでしょうか,多文化共生と他の多くの問題領域との間に共通点を見出せるという点で,各稿に強く興味を惹かれました。

冒頭に述べた創刊時のスピリットを,本誌にとって生みの親のお一人である谷口氏による巻頭言からも,読み取っていただけたでしょうか。リレートークという新企画に加え,是川編集長による連載もいよいよ厚みを増す中,今後も多くの読者の皆さんにとって有益な情報提供をめざしながら,編集委員の任にあたりたいと思っています。

Vol.4に戻る