Vol.1 明治大学国際日本学部 山脇ゼミ

活動内容
山脇ゼミは明治大学国際日本学部で山脇啓造教授が担当する3年生と4年生を対象とした2年間のゼミである。国際日本学部は2008年度に開設された比較的新しい学部であり,山脇ゼミはその1期生が参加した時から始まり,2024年度は14期生と15期生の計30人ほどの学生が参加した。テーマは「多文化共生のまちづくり」で,当初から「実践志向」「地域密着」「社会連携」といった特徴をもち,学生主体で社会課題に向き合ってきた。
これまでの取り組み
国際日本学部は開設当初,和泉キャンパス(東京都杉並区)にあり,新宿区や大田区と連携していたが,2013年に中野キャンパスに移転してからは,徒歩圏内に区役所があることもあり,中野区と連携した活動が中心となっている。
山脇ゼミが中野区と連携した最初の取り組みは2013年に始まった「なかの多文化共生フォーラム」と2014年に始まった「区長と留学生の懇談会」である。どちらも中野区長に参加していただき,これまでコロナ禍の時期も含めて,毎年開催されてきた。また,中野区の生涯学習大学との合同ゼミも2016年から毎年開催されている。また,中野区の不動産会社の調査を行い,外国人住民のために中野区内の家探しサイトをつくったり,中野区で国際交流運動会や「やさしい日本語いちば」,「ちえるあるこ」という多文化共生イベントを開いた年もある。
やさしい日本語
2018年度からやさしい日本語の普及活動に取り組んでいる。活動の初期には,やさしい日本語を紹介する動画を制作し,YouTubeで公開したり,中野区の商店街や区内に本社のある株式会社丸井グループの社員を対象としたワークショップを実施し,地域社会における「やさしい日本語」の普及をめざした。
コロナ禍においては,オンライン活動を積極的に行った。中野区と連携し,国民健康保険やコロナ禍に関する相談窓口,資金援助といった情報を「やさしい日本語」で解説する動画を制作した。また,入管庁と文化庁が策定した「やさしい日本語ガイドライン」の解説動画も制作した。
自治体職員向けの研修も,山脇ゼミの重要な活動の一つである。2020年に豊島区職員を対象としたやさしい日本語研修を担当した。翌2021年には中野区でも同様な研修を担当し,以来,中野区での研修は毎年実施している。
山脇ゼミは子ども向けワークショップも積極的に行っている。2021年には横浜市立相沢小学校と世田谷区立八幡中学校で「やさしい日本語」ワークショップを実施した。2022年度は,自治体職員や児童生徒のみならず,厚木市の小中学校教員や横浜市立上飯田小学校の教員を対象とした研修を実施した。また,2023年度から集英社の女性ファッション誌MOREの記事書き換えにも取り組んでいる。
最後に,全国に大きな影響を与えたゼミの活動を紹介する。日本語ツーリズム研究会とコラボした「やさしい日本語」をテーマとしたミュージック・ビデオ「やさしい せかい」の制作である。歌詞には,日本語学習者にとっての日本語の難しさや,「やさしい日本語」の基本である「はさみの法則」(はっきりと,最後まで,短く言う)を紹介する内容が盛り込まれている。ゼミ生が出演したこのビデオは2021年9月末にYouTubeで公開され,全国のやさしい日本語研修で活用されている。ビデオは2025年3月時点で再生数が7万回を超えている。
2024年度の取り組み
4月の春合宿の後,ゼミに様々なゲスト講師を迎え,6月末に春学期最大のイベントである「中野区長と外国人留学生の懇談会」を開催した。同懇談会は11回目となった。5月に中野区役所が新庁舎に移転し,外国人相談窓口を開設したことを踏まえて,「外国人相談と多文化共生」をテーマに掲げた。都内23区の外国人相談窓口に関する調査を行い,ご登壇いただいた酒井直人区長に7つの提言をした。また,中野区在住の留学生と日本人学生の計6名と区長によるパネル討論では,学生たちが新庁舎の相談窓口を利用した体験に基づいた改善案を提案した。
7月には杉並区立新泉和泉小学校の4,5年生を対象にした「やさしい日本語ワークショップ」を開催した。2日間に渡り,ゲーム形式でやさしい日本語に親しみを感じてもらった。また,静岡県で開催された「多文化共生わかものフォーラム」にも参加した。静岡県多文化共生課の報告の後,山脇ゼミ等三つの学生団体によるやさしい日本語の取り組み発表と意見交換が行われた。恒例となっている中野区職員対象のやさしい日本語研修も担当した。
8月には,株式会社グローバルトラストネットワークスの社員を対象としたマイクロアグレッションをテーマとしたワークショップも実施した。企業対象の取り組みは,前述の丸井グループ社員,2023年度に株式会社ソミック石川(浜松市)の社員対象に行ったやさしい日本語研修に次いで,3回目となった。9月には,横浜市内の小中学校教員が集まる研究会で,やさしい日本語ワークショップを実施した。学校教員対象の研修は4回目となった。
10月には,中野区職員対象のやさしい日本語研修を担当した後,オーストラリア研修旅行を実施した。海外合宿も山脇ゼミの重要な活動で,山脇教授の海外ネットワークを生かして,これまで,韓国,台湾,オランダでも実施した。自治体職員の方も数名参加し,メルボルンとシドニーを訪れた。メルボルンでは移民博物館の訪問や多文化主義専門家の講義があり,バララット市では市役所を訪問し,インターカルチュラル政策に関する発表を聞き,山脇ゼミも簡単な活動報告を行った。シドニーではニューサウスウェルズ州政府や自治体国際化協会と国際交流基金の現地事務所を訪問し,多文化政策や自治体交流,日本文化発信について学んだ。
11月には,5大学が参加した東京都主催のダイバーシティ・プレゼンコンテストで最優秀賞を受賞した。4年連続の受賞となる。山脇ゼミは地域活動を担う町会・自治会の役割に着目し,中野区内の町会・自治会を対象に二度開催したワークショップを基に,新たな共生・共助の地域社会を築くためのツールとしてやさしい日本語を活用したイベントを提案した。そして,12月には山脇ゼミの一年間を振り返る「第12回なかの多文化共生フォーラム」を開き,酒井区長にもご参加いただき,今年度の活動を終えた。
おわりに
山脇ゼミは一年間を通じて,複数のプロジェクトを同時並行で進めている。ここには掲載しきれないほど数多くのイベントやフィールドワークで得た経験やネットワークをもとに,年を重ねるごとに活動範囲を広げている。複数のプロジェクトをかけもちするゼミ生も多く,ワークショップではゼミ生が一丸となってファシリテーターを担っている。イベントを創り上げていく過程で,これからの日本に不可欠な多文化共生の知識やスキル,姿勢を身に付けていくのは,山脇ゼミならではの新たな学びの形と言えるだろう。