Vol.2 順天堂大学保健看護学部 やさしい日本語部
(右上)2024年7月 多文化共生わかものフォーラム in しずおかの様子
活動内容
〈部活紹介〉
「やさしい日本語部」は,やさしい日本語の実践と普及をテーマに,様々な活動を行っています。また,三島市国際交流協会に所属し,地域のイベントの企画・運営に参加したり,在住外国人学生らへの学習支援ボランティアをしたりしています。〈InstagramのURL〉
https://www.instagram.com/jun_yasa?igsh=ZzU1MHhsempxN2F0〈部活誕生の経緯〉
「やさしい日本語部」は,2020年度に,当時1年生である学生が,「将来医療職者になる本学の学生がやさしい日本語について学ぶことで,より良い医療やケアの提供につながるのではないか」と考え設立しました。最初は2人の同好会から活動を始め,現在は部員10名で活動しています。
活動について
私たちは主にやさしい日本語を「学ぶ」「活用する」「普及する」の3軸で活動しています。
「学ぶ」
「学ぶ」では,やさしい日本語への理解を深める取り組みを行っています。たとえば,外部講師をお招きし,講義を受ける機会を設けています。講義では事前に 『受診する』などのテーマを設定し,在住外国人からよく挙がる問題点や,言い換えの工夫などについて教えていただいています。やさしい日本語にはこれが正解だという形がありません。様々な講義を通して,多様な視点や考えに触れることができています。また,受け身の学習だけではなく,自分の言葉の使い方を見直し,相手にどう伝えるかを考えるきっかけにもなります。
講義以外にも,実際にやさしい日本語を使用している施設への訪問研修を行っています。これまでに科学館や美術館,防災館を訪れ,施設見学や担当者へのインタビューを実施しました。東京消防庁池袋防災館の『やさしい日本語防災体験ツアー』に参加した際は,一文を短くすることで,その文章内で最も伝えたいことが相手の記憶に残りやすいということを実感しました。
私たちは,やさしい日本語は在住外国人を対象としたコミュニケーションツール(以下,「ツール」)であると考えがちでした。しかし,本来のやさしい日本語は,日本語を勉強している外国人はもちろんのこと,小さな子から高齢の方,障がいのある方など,全ての人を対象にした言語的ツールです。実際,やさしい日本語は災害時に限らず,地域社会や教育,観光,医療など幅広い場面で活用されています。「外国人のために!」と意識しすぎると,視野が狭くなっていってしまい,やさしい日本語があるべき姿を忘れかけていたことに,防災館での研修で気づかされました。
「学ぶ」を通し,工夫されている表現や,多くの人とのコミュニケーションに触れることで,やさしい日本語のさらなる可能性を体感するとともに,複数の視点からその価値や役割について理解を深めることができています。
「活用する」
「活用する」では,地域や社会の中で,やさしい日本語を実際に活かす取り組みを行っています。まず,外国にルーツを持つ子どもたちを対象とした学習支援ボランティア『のびっこクラブみしま』への参加です。毎週土曜日,小学生から高校生まで,幅広い年代の子どもたちを対象に学習のサポートを行っていました。日本語の理解が十分でない子どもも多く,説明が伝わりにくい場面もあり,絵を描いたり,簡単な言葉に言い換えたりするなど,それぞれの理解度に合わせた工夫を重ねました。また,こどもの日やクリスマスなどの季節のイベントでは,学生ボランティアが中心となり,会の企画・運営を行いました。工作や歌,行事にまつわる物語やクイズを通して,日本の伝統を楽しく学べる場となることを意識して工夫しました。前回は,物語の読み聞かせをやさしい日本語を用いて行いました。難しい言葉をなるべく避けて,伝わりやすさを心がけ,参加者の方が安心して参加できる活動を目指しました。
次に,三島市が主催する外国人向け企画の資料やチラシのやさしい日本語版の作成にも取り組みました。坐禅体験イベントのチラシをやさしい日本語にする際には,文章を短く簡潔に整え,伝えるべき情報が伝わりやすいように工夫をしました。漢字にはふりがなをつけ,「警策」などの専門用語は単純な言い換えだけでなく補足説明も加えることで,文化理解にもつながる表現を意識しました。話し言葉とは異なり,相手の状況が分からない中で,誰にでも伝わる文章を作ることの難しさと,対応する工夫の大切さを感じました。
「普及する」
「普及する」では,主に三島市での地域活動を通して,日本人に向けてやさしい日本語の普及活動に取り組んでいます。
毎年5月と10月に開催される三島市国際交流協会主催のイベントでは,「やさしい日本語ブース」を出展しています。ブースでは,イベントに訪れた方に向けて,部で作成したやさしい日本語に関するクイズ形式のミニゲームを実施し,日常的な表現をより伝わりやすく言い換える体験をしてもらいました。この体験では同じ単語でも,体験者の発想によって別の言い換えが生まれます。言い換えの数だけ,伝え方があり,人それぞれオリジナリティ溢れた伝え方ができるため,やさしい日本語というツールの奥深さを感じました。
また, 2024年7月7日には「多文化共生わかものフォーラム in しずおか」にて,自分たちの取り組みを発表する機会をいただきました。フォーラム内のグループディスカッションでは,異なるバックグラウンドを持つ同世代の方々と交流し,「やさしい日本語を通して私たちができること」について意見交換をしました。その中で「ヤングケアラーの言語的負担を軽減するために,学校のお便り(入学手続き案内,行事連絡等)にやさしい日本語を取り入れても良いのではないか」といった意見が出ました。自分では気づかなかった,やさしい日本語のニーズや新たな視点を得ることができ,貴重な学びの機会となりました。
学内の看護学生に向けては,大学祭にてワークショップを開催し,やさしい日本語の認知向上に取り組みました。ワークショップは,講義と練習問題を組み合わせて行い,練習問題に取り組んだ後に振り返りをして理解を深めることを重視しました。参加者の理解度を踏まえて進行する必要性や,「伝える」だけでなく「伝わる」工夫の重要性を強く実感しました。
おわりに
私たちは「学ぶ」「活用する」「普及する」の3つを軸に,やさしい日本語の理解を深めてきました。様々な取り組みを通して,やさしい日本語は単に言葉を簡単にするのではなく,「相手に合わせて伝わるように工夫すること」であると強く感じています。子どもたちや地域の方々と関わりながら,言葉がどのように伝わるかを意識し,臨機応変に対応する能力を日々学び続けています。講義や研修では,「正解のないやさしい日本語」に向き合う中で,柔軟な思考と多様な視点を持つことの大切さに気付きました。また,地域や学内での普及活動を通じて,自分たちの学びを社会に還元していく意義も感じています。
今後は,医療・保健の現場でやさしい日本語をどのように活用できるか,より深く考えていきたいと思います。医療が必要な方やそのご家族にとって,わかりやすい説明や,安心につながるコミュニケーションは欠かせません。これは,看護職を目指す私たちにとって重要な課題です。そのためにも,学内での普及活動をさらに充実させ,将来,医療・保健の分野で活躍する仲間たちにもやさしい日本語の必要性を伝えていきたいと考えています。今後も,「学ぶ」「活用する」「普及する」の取り組みを継続しながら,やさしい日本語を実践し,学びを深め,社会や医療の現場に活かせるよう活動していきます。


