社会の安定を目指し幅広い読者に提言や意識啓発したい。
それが「みらい」のミッション(田中)
守山:私たちが安心して生活したり、日立に限らず企業が健全な活動をするためには、社会が安定していなければならないと思います。ですからなるべく多くの人が平和に安全にしかも幸せに暮らせるような社会の構築が前提だと思います。この新しいWebマガジンは、そのための一助になるべきだと思っています。
田中:日本は「課題先進国」と呼ばれています。安全な社会を築くには、安全を脅かす要因を見つけ、さまざまな視点から社会課題を捉えていく必要があります。そうした視点を幅広い読者に提言し、意識啓発を行っていくことがWebマガジン「みらい」のミッションであると考えています。
守山:日立はこれまでIT社会に多大な貢献をされてきました。今や単なるパソコンの時代からIoTの時代に突入し、今後ますますそういう方向に進むだろうと言われています。日立財団がIoT時代に担う役割についてどうお考えですか。
田中:日立は電力や鉄道といったインフラ事業の一方、ITも中核事業に位置付けられています。これからはそれらインフラがITと結びつき全てのモノがネットに繋がって、もっと効率的に豊かで便利な世界にどんどんと変わっていきます。日立にとっても強みが活かせる事業領域あり、社会における新次元だと日立は言っています。企業としての日立がより効率的で豊かな社会を目指してビジネスで社会の課題を解決していこうとするのに対し、日立財団は社会貢献の面からより人々の暮らしに密着していきたいと考えています。
例えばいま、ネット社会になっているわけですが、そこでネット犯罪に巻き込まれる危うい青少年の人もいますし、セキュリティの問題、デジタルデバイド(情報格差)などの問題が出て来ています。そこで我々日立グループではITを強みとしてきた日立ならではの視点で、IoT時代の課題に財団として取り組んでいきたいと思っています。
守山:要するにコンピュータにしてもインターネットにしてもIoTにしても、その使い道や使い方を取り違えてしまうと、マイナス面が逆にどっと出てしまうという危うい所があるわけですね。2016年12月に開催された日立財団主催の「社会を見つめるシンポジウム 漂流する高齢者」では高齢者の問題を扱ったのですが、その中で介護とICTの利活用をひとつのテーマとして取り上げました。今後は誰もがコンピュータ社会や、IoT社会と付き合っていかなければいけないわけですから、高齢者にしても子供にしても、そういう社会的弱者がIT社会に直面して今後さまざまな問題を抱えていくこともできます。非常に重要なテーマだと思います。

田中:そうですね。以前に開催された「ネット社会と少年非行」がテーマのシンポジウムにも参加しましたが、非常に啓発されました。たとえば小学生の頃からネットの影響に対する教育をしようとか、それに関連する取り組みの紹介などもあり、色々な発見や気づきがありました。そうした課題と対策の両面からのアプローチで、シンポジウムのテーマを取り上げていくと良いと思っています。
「人づくり」は以前からの大きなテーマです。
日立財団では2つの新規事業を始めました(田中)
守山:次に子供の問題に関してお聞きします。日立の財団は、合併前からずっと子供の問題に注視してやってこられましたが、今後子供の問題に関し、日立財団としてお考えになっている方向性はありますか。
田中:企業は「人づくり」を大切に考えています。財団を設立された歴代の社長、副社長にしても、いかに人づくりをするかというのが共通する大きな中心テーマだったといえます。
例えば第二代社長の倉田さんは科学技術振興のための財団を作られましたし、竹内亀次郎副社長は非行などで道をはずれた若い人の更生に「日立みらい財団」の前身を、さらに第三代社長の駒井さんは若い人の家庭教育のための財団や若い人の学術交流のための財団も興されました。これらは全て「人づくり」なのです。例えば「小平記念作文」という活動を茨城県で行っておりますが、毎回2万件くらいの応募があります。ネットで短い会話が一般的になっている現代の子どもたちの状況をふまえ、きちんと自分の考えを文章で表現することが情操教育に繋がるという考えで行っているものです。
また、日立財団では新たなチャレンジとして理工系人財育成を掲げています。最近の“理科離れ”で理工系の人間が少なくなってきており、日本の科学技術立国が危うくなっているという危機感からです。事業として2つ考えておりまして、ひとつは小学5年生を対象とした次世代の理工系人財育成に資するプロジェクト型の出張授業で「日立みらいイノベータ―プログラム」。もうひとつは、中高生向けに、特に理工系の女性に対してさまざまな啓発をやっていこうとしています。2016年の夏は、日本科学未来館で第一線で活躍する多彩なゲストをお迎えして「みらいを作るリケジョたち!」というテーマでシンポジウムを開催しご好評を頂きました。こうした理工系人財の育成については今度もさまざまな活動を行っていく予定です。
