
質疑応答
質問1パッションはすぐ見つかるのですが、でも持続しないのです。パッション、やる気を持続するにはどうしたらいいでしょうか。
ボーク重子ありがとうございます。すごく良い質問で、これにはコツがあって、それは毎日できるような、小さな行為を続けていくことです。普通、「これが好き」と思った瞬間、こうなったらいいなという未来の姿を思い浮かべますよね。それは往々にして今の自分よりもはるかに大きな姿であることが多いです。いまの自分とかけ離れた大きなギャップを感じた瞬間、気持ちがぺちゃっと萎えてしまって途中で諦めてしまいがちです。私もそうでした。そうならないように、コーチングで言うところの「スマートゴール」を設定します。いまの時点から目標まで到達するために、小さく小さく、ゴマ粒くらいのゴールを設定して毎日クリアする。そうすると自分は、毎日毎日、成功を重ねることができるわけです。本当に小さなステップなのですが、確実に目標に近づいていくことができ、パッションを保ちやすくなります。ですから、今度何かパッションを見つけたら、そのために無理せずできることを1つ決めて、毎日必ず実行してみてください。毎日やることがあまりにも大きいと続きません。かといって簡単すぎても続かない。適度なことを決めて、毎日やる。そして自分の観察日記をつける。その日、自分が実行したこと、それを毎晩寝る前に確認すると、気分よく眠りにつくことができます。そして次の朝起きた瞬間に、よし!と気合いが入ります。毎日コツコツ、コツコツやってください。
もしそれでもだめな場合は、きっと選んだものが本当に好きではないのでしょう。そんなときは「やめるルール」を決めて、ほかのことに挑戦するのがいいと思います。「やめるルール」とは「ここまではやる」と決め、その時期が来るまではどんなに嫌でも続けるというものです。そこまでやって好きでなければ「頑張ったね」と、達成感を持って次に移ることができます。娘の場合はバレエで、お稽古を15年以上も試しました。それを経てバレエを選んだのです。
質問2パッションへの近づき方、達成のしかたのヒントを教えていただきましたが、ボークさんご自身の体験や実例を教えていただけますか。
ボーク重子ありがとうございます。私が変わったきっかけは、椅子からずっこけてしまいそうなとても小さなことなのですが(笑)、「はたきかけ」だったのです。私が自分に自信を持って自分のパッションを追いかけることがロールモデルとして必須だと気が付いたとき、自分にまず何ができるかを考えました。私は美術の修士号を持っていましたが、アートビジネスの世界で働いた経験がなかったので、私はまず美術の業界で私ができそうなボランティアをすることから始めました。それが、はたきかけでした。週に3回、美術館の暗い廊下にあるファイルやそこに溜まった書類のホコリをぱぱっと払うだけですが、家で娘に「ママ、きょう美術館ではたきをかけたのよ」と報告するときは、夢に向かって一歩進んでいることを実感して嬉しかったです。はたきかけは、私にとっては勇気ある第一歩でした。
そんなことで自信がつくのかと思われる方もいらっしゃるでしょう。でも、一歩を踏み出すということが私にとってはすごく重要で、他の人が何と言おうが関係ありませんでした。変わりたいと思ったら、小さなベビーステップから始めることです。ステップが小さいから「私には無理かも」なんて思わずに地道にできますし、成果が見えるのでやる気が長続きします。
そのステップができたら、自分を褒めてください。やって当たり前、できて当たり前などということはありません。やらない、できないことが普通だとしたら、そのベビーステップをやり遂げたということはすごいことなのです。それはレスポンシブ・クラスルームでお話しした、「安全な環境」を自分自身の中に作ることにつながります。自分の存在を認め、自分をありのままに思い切り無条件に愛してあげる。そんな環境は自然と楽しい雰囲気を作り上げます。先ほどお話ししたレスポンシブ・クラスルームの3つの柱を忘れずに、試してみてくださいね。
質問3日本の教育機関ではまだ点数での評価が一般的で、また、私たち日本人も非認知能力といった新しい方法を取り入れることは難しいと思っています。点数での評価が一般的な中で、子育てを上手く結実させるためにはどのような方策があるでしょうか。
ボーク重子この質問を待っていました。日本だからこそ、お子さんの非認知能力をぜひとも伸ばしてあげてください。なぜなら認知能力、つまり点数主義であればあるほど、子どもの強さ、非認知能力が問われると私は思うからです。点数主義はある一点からしか子どもを評価しません。他の基準軸は全て無視です。子どもはみんながみんな、点数が取れるわけではありません。ですが子どもは誰にでもキラッと輝く何かがあるのです。それを見つけて育んであげると確実に自己肯定感が上がり、自信がつきます。そんな子どもはテストの点数が下がったり上がったり、順位が下がったり上がったりしただけで自分への評価を変えることはないでしょう。確固たる自分への評価を持っているからです。
非認知能力を身につけることは必須です。なぜなら現代では社会で求められる能力が従来の能力とは変わってきているからです。今まで求められていたのは正解のある問題に正確にいち早く答える能力でした。でも今ではAIがやってくれます。現在の職業のうち半分はAIに取って代わられてしまうという話も耳にします。いろいろなところでコンピュータがどんどん入ってきています。人間はしょせん、認知能力ではコンピュータにはかないません。これからはAIにはできないこと、人間しか持っていない能力が社会で求められるのです。それは人間力です。そしてそれを育むのが非認知能力なのです。
これからグローバルな社会になるほど、日本に可能性があると思っています。なぜなら、認知能力の教育において日本は世界トップクラスです。とにかく、これほど知識が高いレベルで一定している国民は世界を探してもあまりありません。OECD(国際協力開発機構)が行っている学力テスト「PISA(生徒の学習到達度調査)」で、日本は毎回上位に入ります。それは、認知能力の教育が非常に進んでいるからなのです。そこに非認知能力、心の強さが加わったら、この国はどうなるでしょう。すでに優れた認知能力が備わっているところに、自己肯定感、主体性、柔軟性や創造力などの高い非認知能力が加わったら、この国の人材はますます社会から必要とされる人材となることでしょう。
文部科学省が2020年をめどに戦後最大とも言われる教育改定を行います。そこでは思考力、対話力、主体性、協働力など非認知能力に関わる能力の育成を掲げていますが、学校が変わるまで待つことはありません。家庭でできることを、今日から実践していただけたらと思います。実は日本の学校、特にエリート私立校では、すでに文科省が掲げる教育改革と似た教育をしています。だから待つのではなく、今日から始める。やっている人はすでに大勢いるのです。認知能力の向上は学校に任せておけば大丈夫です。家庭では家族の愛情をたっぷりと注いで、非認知能力を養ってあげてください。ぜひともご家庭で、今日私がお話ししたことを実践してみてくださいね。

ライフコーチ、著述家。イギリスの大学院で現代美術史の修士号を取得後、結婚を機に1998年ワシントンDCに移住し、出産。2004年現代アートビジネスで起業、2年後に同年アートを通じての社会貢献によりオバマ大統領(当時上院議員)とともに「ワシントンの美しい25人」に選ばれる。仕事と子育てを両立させながら全米一研究機関の集中するアメリカの首都で世界最高の子育て法を模索し、考える力と非認知能力を一緒に育む教育法にたどり着く。その教育により娘は「Distinguished Young Women of America 2017全米最優秀女子高生」で優勝。著書に「世界最高の子育て(ダイヤモンド社)」「世界最高の子育てツールSMARTゴール(祥伝社)」「非認知能力の育て方(小学館)」がある。
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