日立財団アジアイノベーションアワードは、ASEANの社会課題解決と持続可能な社会実現に資する科学技術イノベーションを促進するために、今年度より開始した表彰事業です。
本アワードでは、持続可能な開発目標(SDGs)への貢献を目的として、あるべき社会像を描き、科学技術の社会実装を計画に入れた優れた研究および研究開発において、画期的な成果をあげ、明らかに公益に供したと思われる個人またはグループを表彰します。
初回となる今年度は、ASEANの中の6か国(カンボジア、インドネシア、ラオス、ミャンマー、フィリピン、ベトナム)の18大学および研究機関を対象に、SDGsのゴール2「飢餓をゼロに」とゴール3「すべての人に健康と福祉を」のそれぞれ以下のターゲットに貢献する研究および研究開発の成果を募集しました。
ゴール2「飢餓をゼロに」
ターゲット2.2 適切な栄養摂取の実現、2.3 農業生産性と農民の所得向上、2.4 持続可能な農業生産方法
ゴール3「すべての人に健康と福祉を」
ターゲット 3.3 伝染病の根絶および感染症への対処、3.6 道路交通事故による死傷者の半減、
3.8 ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成、3.9 有害化学物質、大気、水質および土壌の汚染対策
対象大学および研究機関から推薦による応募を受け付け、書類審査、面接(最優秀賞候補者のみ遠隔で実施)、選考委員会を経て、最終的に12件の受賞者が選定されました。
当初2021年1月に東京で開催を予定しておりました本アワードの表彰式については、今般の新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、開催を見送る決定をいたしました。つきましては、表彰式のご報告に代えて、以下のとおり、受賞者の研究概要と挨拶をご紹介させていただきます。
最優秀賞
![]() 「インドネシア・チタルム川流域汚染の浄化・環境対策」 ![]() ターゲット3.9 |
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氏名 | Ajeng Arum Sari | ![]() |
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所属・役職 | インドネシア科学院 (Head, Research Unit for Clean Technology) |
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国 | インドネシア ![]() |
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研究テーマ | チタルム川流域の再生および保全:モニタリングから先端技術の実装まで | |
社会課題 | 西ジャワ州のチタルム川には、「世界で一番汚い川」の異名があります。チタルム川流域に関する主な問題は、工業廃水とプラスチックごみを含む家庭ごみの2つです。人口が密集したスラム地域では、排泄物処理の問題もあります。インドネシアの大統領は、7年以内に汚染のひどいチタルム川をとても清潔な川に改善し、流域住民のクオリティ・オブ・ライフを向上させることを目標に掲げました。 | |
研究および 研究開発の 成果 |
本研究ではチタルム川流域における環境問題の克服に向けて、数種類の技術を展開しました。川岸の破片ごみをモニタリングしたところ、破片ごみの重量と体積の約80%がプラスチックごみと判明しました。プラスチックごみの量は、1日当たり5,000片と推定されます。そこで、プラスチックと部分的に置き換え可能なバイオプラスチックとバイオフォームに展開しました。繊維産業から排出される廃水処理には、新しい吸着剤を利用して、生体材料マトリクスおよび吸着プロセス数種類へのリグニン分解酵素の固定法を実践しました。河川水の悪臭や色を大幅に(99%)削減させる処理としてナノバブル技術を用います。さらに、人口湿地による有機汚染物質の吸着も可能です。一方、本研究では廃水を有価値な商品に変えるシステムも開発します。有機汚染物質を多く含む豆腐製造過程の廃水処理に向けて、嫌気性多段階固定層反応装置を設計・設置し、その副産物として発生するバイオガスは、家庭での調理に利用してもらいます。また、各家庭から出る廃棄物の川への流入を抑制するため、し尿分離型バイオトイレシステムを開発しました。集められた尿と糞便は、液体肥料および堆肥への転換が可能です。 | |
社会実装計画 | 本研究の技術を展開するにあたっては、次の2点を主に考慮します。第一に、コミュニティと企業に上記技術の持続可能性を維持してもらうための戦略です。第二に、これらの技術で上記の関係者が利益を得られることです。将来、これらの技術を他のセクターでも適用することは、経済面・技術面ともに可能です。コミュニティでは、責任をもってこれら技術の持続可能性を維持することで、衛生的な水の利用や再生可能エネルギーと付加価値製品の製造、汚染による疾病の減少など、多くのメリットを得ることができます。ナノバブル技術および人口湿地システムにより、川のU字型に湾曲した流域に新たな水源が得られ、乾期に水を引くことがなくなります。固定化システムの実装は、コミュニティの繊維企業および中小事業者にとってメリットとなります。嫌気処理ではバイオガスが継続して生産され、対象となる世帯のガス需要をまかなえます。処理済みの水は、乾期には農業用水として利用され、食糧の確保につながります。バイオトイレにより屋外での排泄がなくなり、衛生面が改善されます。 | |
SDGsへの 貢献 |
本研究開発は、SDGsの、とくに目標3、6、7、11、12に貢献するものです。汚染水を適切に処理することで、チタルム川の水質汚染の軽減、水質の向上、水利用効率の改善、淡水供給の確保が可能になります。コミュニティに参加してもらうことで、3R(Reduce:減らす、Re-use:繰り返し使う、Recycle:再資源化する)が実践され、天然資源の利用効率が強化されます。また、汚染による疾病数の減少も見込めます。さらに、安全で手ごろな価格の住居を供給することで、持続可能な都市やコミュニティの実現も可能になります。 | |
活動の様子 |
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受賞コメント | 本研究チームを代表して、この賞に選んでくださった日立財団の皆様へ感謝申し上げます。また、本研究開発をいつも応援してくれたインドネシア科学院(LIPI:Lembaga Ilmu Pengetahuan Indonesia)の長官にも感謝します。この取り組みは、LIPI、産業界、中小企業、コミュニティの皆様との連携により生まれたものです。人々が協力し、世界規模で考えることにより、チタルム川流域の再生と保全の改善、ひいては持続可能な社会の実現につながるでしょう。 |
最優秀賞
![]() 「ベトナム農作物の低温加工による高付加価値化」 ![]() ターゲット2.3 |
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氏名 | Tan Minh Nguyen | ![]() |
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所属・役職 | ハノイ工科大学 (Assoc.Prof., Director, Institute for R&D of Natural Products (INAPRO)) |
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国 | ベトナム ![]() |
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研究テーマ | JEVA – 農産物および水産物の付加価値創造に向けた熱に弱い水溶液(果汁・植物抽出液など)濃縮のためのスマートなモバイル型技術的解決策 | |||||||||||||
社会課題 | ベトナムはかつての農業生産性の低い国から、東南アジア2位、世界15位という有数の農産物輸出国へと変貌しました。しかし、青果の90%が今でも生の状態で輸出されており、商品価値も高くありません。収穫後の加工技術不足、中小規模農家の散在、および特産品の季節性が強いことが原因で、ベトナムでは毎年数兆ドンもの損失が発生しています。 | |||||||||||||
研究および 研究開発の 成果 |
JEVAは、いくつかの革新的技術が搭載された世界初の商業的蒸発技術ソリューションです。
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社会実装計画 | JEVAは、技術ソリューション(ソフトウェア)、機器ソリューション(ハードウェア)、多様な素材(各種トロピカルフルーツ、各種植物抽出液など)向けの作業データベースを備えた技術的解決策です。各事業者からの要請によるJEVAのプロトタイプを使用したサンプル品の生産は2016年9月から始まっており、これまでの実績から、JEVAの優れた技術特性と適用性が確認されています。こうした背景に基づき、ビジネスモデルを開発しました。JEVAの市場進出には、以下の3つの手法が考えられます: (1) 製造企業への直接販売 (2) 共用を前提としたレンタル契約:顧客としては、時期によって、中小規模の事業者、各組合、互いに離れた土地の各農場が見込まれます。 (3) フランチャイズ JEVAの効果的な実装には、プロジェクトのあらゆる段階で技術開発者が見込み客を継続してサポートすることが必須です。プロジェクトは、以下の6段階に分割されます。
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SDGsへの 貢献 |
JEVAによるSDGsへの貢献は以下の表の通りです。
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活動の様子 |
JEVAにより、価格が下落したニントゥアン省のドラゴンフルーツやスイカを活用(2020年2月〜3月) |
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受賞コメント | 自然がもたらす価値と多様性を尊重して開発されたイノベーションであるJEVAの利用により、以下の実現が見込めます。
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優秀賞
![]() 「汚泥による発電用バイオガスおよび有機肥料の生産」 ![]() ターゲット3.9 |
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氏名 | Do Van Manh | ![]() |
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所属・役職 | ベトナム科学技術アカデミー (Assoc.Prof., Institute of Environmental Technology) |
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国 | ベトナム ![]() |
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研究テーマ | エネルギー回収および有機肥料生産に向けた余剰汚泥処理の研究開発技術 | |
社会課題 | 本研究開発により廃棄物が見直され、廃棄への社会的責任意識が促進されることが考えられます。それに伴い、廃棄物が新たな製品に加工され、新しい価値の連鎖が創出されることが見込めます。 | |
研究および 研究開発の 成果 |
本研究では、理論を実践に移す際の科学面での解決に貢献した実績があります。技術面では、ベトナムで初めて、低コストのバイオガス浄化技術を習得しました。また、バイオガス浄化のための高重力回転充填床(HGRPB:high gravity rotating packed bed)機器を低コストで製作し、システムの商業規模での運用を可能にしました。実装で適用したソリューションはデジタル化の流れにも非常に適合した、作業手順の自動化により消費エネルギーと排出を抑えながら、廃棄物から有機肥料を生産するというものです。 | |
社会実装計画 | 本研究は廃棄物処理問題を解決しながら製品の連鎖価値を創出し、再生可能エネルギー開発および有機農業発展への貢献へつなげるものであり、その社会実装には大きな意義があります。発展途上国のベトナムでは、経済成長および社会の発展に向けたエネルギーの必要性が特に重視されています。しかしながら、経済成長に焦点を合わせると環境に影響が及ぼされるという矛盾が生じます。本研究はベトナムが抱えるこの問題に向き合い、全面的な解決策を案出するものです。廃棄物を有価値資源ととらえ、廃棄物から環境に配慮した製品を製造し、農業の価値を創出します。 | |
SDGsへの 貢献 |
本研究では、以下の3つの点で社会と持続可能な開発目標の実現に貢献します。
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活動の様子 |
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受賞コメント | 社会と地球のために行動を起こしましょう。今日や明日ではなく、今! |
優秀賞
![]() 「心血管疾患検出装置の開発」 ![]() ターゲット3.8 |
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氏名 | Tati Latifah E Rajab Mengko | ![]() |
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所属・役職 | バンドン工科大学 (Prof., Biomedical Engineering, School of Electrical Engineering and Informatics) |
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国 | インドネシア ![]() |
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研究テーマ | 初期循環器疾患検出機器の開発 NIVA:非侵襲的血管分析計(Non-Invasive Vascular Analyzer) |
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社会課題 | 循環器疾患による死亡および障害の減少により、人々のクオリティ・オブ・ライフ向上が可能になります。非侵襲的な測定技術は、定期的な健康状態のチェックを奨励することにつながるものです。その結果、疾患リスクへの意識が高まり、生活習慣の改善から心臓発作や卒中発作の予防につながることが見込めます。 | |
研究および 研究開発の 成果 |
循環器疾患は、血管が詰まる主な原因である「プラーク」が動脈にできることで始まります。プラークは不健康な血管で形成され、その原因は内皮細胞の異常です。本研究では、血圧計のカフと光学センサーを手と足に装着してもらい、非侵襲的に血管の健康状態を測定する機器を開発しました。 正確な結果を得るため、機器の操作はコンピュータで制御されます。PPG信号と血圧の測定値から血管の「健康レベル」に関する情報が得られ、この情報は心臓疾患および卒中発作のリスク予測に役立てることができます。 | |
社会実装計画 | 本研究活動は、心臓病専門医とエンジニアからなるチームの連携によるものです。実用規模のプロトタイプ完成に向けて、研究チームは産業界の各パートナーとも緊密に連携しました。プロトタイプは現在、技術試験および臨床試験に向けた準備が完了しています。完成した機器は、インドネシア政府による「健康的な生活に向けた国民運動(GERMAS: Gerakan Masyarakat Hidup Sehat)」の推進活動、特に循環器疾患の予防に役立てられる見込みです。血管の健康状態を測定する機器はプライマリ・ヘルスケアの全施設に設置される予定です。これにより、早期の血管健康チェックが可能になり、心臓発作および卒中発作の発生減少につながると考えられます。 | |
SDGsへの 貢献 |
NIVA(非侵襲的血管分析計)により、循環器疾患リスクのレベルを測定することができます(目標3)。本製品が設置されることで、心臓発作および卒中発作の発生予防につながると考えられます(ターゲット3.3)。また、心臓発作および卒中発作の患者数の減少による保険料引下げも見込めます(ターゲット3.8)。 | |
活動の様子 |
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受賞コメント | NIVAの使用により、以下の社会・経済的なメリットがもたらされます。 第一に、NIVAは血管硬化の早期発見(公衆スクリーニング)に役立ちます。NIVAの検査結果からコミュニティの生活習慣(公衆衛生)に関する大まかなデータを把握することができ、コミュニティの生活習慣および公的保険制度の改善につながる医療的な予防措置のきっかけとなります。第二に、NIVAの利用で、心臓・血管の異常による死亡率の低下が期待できます。これらのメリットは、コミュニティにおける医用生体工学の目標達成に役立ち、ひいてはコミュニティの公衆衛生サービスおよびクオリティ・オブ・ライフの改善につながると考えられます。 |
![]() 「ハイブリッドゼロ排出–エビの再循環養殖システムの開発」 ![]() ターゲット2.4 |
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氏名 | Gede Suantika |
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所属・ 役職 |
バンドン工科大学 (Prof., School of Life Sciences and Technology) |
国 | インドネシア ![]() |
研究 テーマ |
持続可能な超集約型エビ養殖に向けたハイブリッドゼロ排水(ZWD)再循環水産養殖システム(RAS)閉鎖養殖システムの開発および適用 |
研究概要 従来のエビ養殖システムでは、不十分な水質管理、高レベルの汚染、病気の急な発生など、いくつかの問題点が存在しています。これらは、養殖の予期せぬパフォーマンス、環境・経済面での問題につながります。この持続可能性の課題を解決するため、「ハイブリッドゼロ排水(ZWD:Hybrid Zero Water Discharge)再循環水産養殖システム(RAS:Recirculating Aquaculture System)技術」を開発しました。ZWDでは、微生物ループの操作により水質を維持します。これには生菌の巨大菌(アンモニア化成の促進)、硝化菌集団(亜硝酸アンモニウムの除去)、珪藻のキートケロス・ムエレリ(硝酸エステル、粗大粒子の摂取、菌の制御))を利用します。RASでは、廃水を以下のプロセスで処理します。1.沈殿槽で粗粒状有機物を沈殿、2.物理的濾過(微粒有機物またはタンパク質用プロテインスキマーと有毒物質を吸収させる活性炭素)、3.オゾン発生器または殺菌、4.亜硝酸アンモニウム除去用バイオフィルター。本ハイブリッドシステムにより、水質および水の効率性が大幅に改善されます。また本システムでは環境にも配慮しており、高い生産性が実現されます。そうしたことから、インドネシアの都市部および商業的養殖業者(大・中・小規模)の一部の養殖場の発展支援につながっています。 |
![]() 「ミャンマーにおける水生生物 ![]() ターゲット2.4 |
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氏名 | Kay Lwin Tun |
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所属・ 役職 |
ヤンゴン大学 (Prof., Fisheries and Aquaculture) |
国 | ミャンマー ![]() |
研究 テーマ |
ミャンマーにおける水生生物科学研究の展開 |
研究概要 漁業および水産養殖は、ミャンマーの食料安全保障および経済面において非常に重要なセクターです。しかし、現場では古い養殖技術が用いられており、その生産量は概して低い水準でした。ヤンゴン大学では、2008年に水産養殖および漁業関連の研究への特化を目指した水生生物科学研究所(Laboratory of Aquatic Bioscience)を設立しました。本研究所では養殖生産量の増加・食の安全・品質の向上に向けて、研究開発を通じて小規模ならびに大規模養殖事業者への技術支援を行ってきました。また、学部教職員および水生生物科学の研究に興味を持つ学生の能力開発にも注力しています。2018年には、当水生生物科学研究所内にミャンマー初の(自然科学)漁業・水産養殖((BSc) Fisheries and Aquaculture)プログラムが展開されました。本プログラム出身の教員および学生は国際的競争力を備え、ミャンマーにおける持続可能な漁業および水産養殖セクターの発展に向け、研究・教育・サービスの各活動での連携で実績を積んでいます。 |
![]() 「安全で安価な生物農薬肥料 兼 病虫害予防液の開発」 ![]() ターゲット2.3 |
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氏名 | Kim Eang Tho |
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所属・ 役職 |
王立農業大学 (Deputy Director, Division of Research and Innovation) |
国 | カンボジア ![]() |
研究 テーマ |
カンボジアにおける食の安全および持続可能な農業に向けた統合的かつ相乗的なバイオ農薬および肥料の概念証明・プロトタイプ開発・包摂的な生産・マーケティング |
研究概要 化学農薬の過剰散布は、健康と環境に重大なリスクをもたらします。一方、都市部では、観賞用および食用の植物を育てるガーデニングが新しい日常の一部となっており、特に新型コロナウイルス感染が激増して以降、その流れが顕著になっています。また、都市環境に合った製品への需要も高まっています。本研究開発では、2種類の統合技術パッケージのプロトタイプ試験および製品開発に焦点を合わせました。1つはiGreenSYNERGY(葉用肥料、天然虫よけ剤、微生物化合物、誘導抵抗性、天然界面活性剤の混合物が1本のスプレーボトルに)、もう1つは3-Essential Oils(インドセンダン、カンキツ類、コウズイガヤ、天然界面活性剤を合わせた殺虫スプレー)です。これらはシンプルで使いやすく、安全性も万全であり、都市部での観賞用植物または鉢植え植物への使用に適しています。生産にあたっては地元のコミュニティとの包摂的なアプローチを取って原料を調達し、製品の卸売り業者とエンドユーザーに働きかけるマーケティングを行います。これにより、現地の農業従事者の収入増加、公衆衛生および福祉全般の改善支援が見込まれます。 |
![]() 「排水浄化のためのカポック繊維吸着剤の開発」 ![]() ターゲット3.9 |
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氏名 | Mary Donnabelle Balela |
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所属・ 役職 |
フィリピン大学ディリマン校 (Prof., Department of Mining, Metallurgical and Materials Engineering) |
国 | フィリピン ![]() |
研究 テーマ |
水処理への適用に向けた効率的かつカスタマイズ可能なカポック繊維吸着剤の開発 |
研究概要 水不足および水質汚染は、急速な都市化および工業化によりもたらされ、深刻な問題となっています。 フィリピンなどASEANの発展途上国では、革新的かつ包摂的な経済成長に努めており、今後課題となるのは、衛生的な水など基本的なニーズとサービスが利用可能で、かつ持続可能なコミュニティの創生です。カポックを利用して、金属、染料、油などさまざまな汚染物質への対処に向けた、多様な吸着剤が開発されました。カポック吸着剤は吸着する汚染物質に合わせて仕様を変えることができ、形状もカスタマイズすることができるので、既存の水浄化システムへ容易に統合することができます。低コストの技術導入により、農村部・都市部を問わずより多くの自治体で水処理施設の設置が可能になり、自治体および事業所から出る未処理廃水の川本体への放出が抑制されることが見込めます。カポックは安価で経済的な繊維です。この取り組みは、カポックの価格安定、カポック業界の振興に貢献し、ひいては雇用創出および現地の経済成長にもつながるものと考えられます。 |
![]() 「マラリア撲滅のためのジヒドロアルテミシニン–ピペラキンとプリマキン投与研究」 ![]() ターゲット3.3 |
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氏名 | Mayfong Mayxay |
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所属・ 役職 |
ラオス保健科学大学 (Prof., Vice-Rector, Institute of Research and Education Development (IRED)) |
国 | ラオス ![]() |
研究 テーマ |
ラオスにおけるマラリア根絶ツールとしてのマラリア薬「「ジヒドロアルテミシニン-ピペラキン(DP)+プリマキン(PQ)」による集団投薬(MDA) |
研究概要 2030年までにマラリアを根絶することは、ラオスを含む多数の国における、SDGs目標3のターゲットの1つです。マラリアの根絶には、薬剤耐性マラリアおよび無症状のマラリア保菌者という課題があります。未治療・無症状の保菌者は、有力な感染源となるからです。マラリアを根絶するための効果的なツールが緊急に必要です。集団投薬(MDA:mass drug administration)は全人口からマラリアの感染源を除去する推定治療です(治療を受ける人がマラリア保菌者かどうかは問いません)。マラリアの根絶を早めるためですが、依然として異論が多い戦略です。本研究では、抗マラリア薬「ジヒドロアルテミシニン-ピペラキン(DP)+プリマキン(PQ)」を用い、MDAのフィールド実験を行いました。実験ではMDAの安全性、高い忍容性が示され、高い人口カバー率およびアドヒアランスが達成され、マラリアの減少に実質的な効果がみられました。こうしたことから、MDAはマラリアの早期根絶に役立つツールとなる可能性があります。ラオスでのこうした当初の成功を受け、この手法が今後の各地におけるマラリア制御および根絶プログラムでも、特に貧困層に属する人々の大半が暮らすマラリア地域において成功することも考えられます。このことは、SDGsに関連する理念「誰一人取り残さない」の実現に貢献するものです。 |
![]() 「インドネシア薬用植物からの感染症治療薬の開発」 ![]() ターゲット3.3 |
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氏名 | Muhammad Hanafi |
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所属・ 役職 |
インドネシア科学院 (Prof., Research Centre for Chemistry) |
国 | インドネシア ![]() |
研究 テーマ |
感染症治療用生薬・植物薬としてのインドネシア産薬用植物の展開 |
研究概要 昨今の感染症の問題は、極めて重大な世界規模の問題を代表するものです。結核、マラリア、肝炎、COVID-19など、各地域特有の感染症は、世界の死亡原因の8%を占めると推定されています。インドネシアの生物多様性を有効な植物薬および代謝産物の源として活用し、候補薬を開発することに焦点を当てることで、多様な感染症の根絶および直近のCOVID-19による衛生上の緊急事態の終息を目指します。本研究のアプローチは、この危機への対抗策として、候補薬の原料としての優越性が証明された天然産物を活用するというものです。具体的には、マラリア、HCV、デング熱、肝保護剤、抗菌剤、抗がん剤、抗COVID-19剤候補向けの有効活性成分および植物製品などを取り扱います。本研究ではこれまでに、ケイ皮酸メチル、カテキン、ピペリン、アルテミシニン製品、標準生薬および植物薬製品で製薬企業各社と連携し、肝保護剤としてのツボクサ(C. asiatica)、抗デング剤および抗COVID-19剤候補としてのカッシア・アラタ(C. alata)およびデンドロフトエ属類(Dendrophtoe sp.)の開発を手掛けています。 |
![]() 「汽水地下水における容量性脱イオン現象による脱塩技術適用」 ![]() ターゲット3.9 |
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氏名 | Seinnlei Aye |
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所属・ 役職 |
ヤンゴン大学 (Prof., Water and Environmental Studies Department) |
国 | ミャンマー ![]() |
研究 テーマ |
ヤンゴン市ダラ(ミャンマー)における容量性脱イオン(CDI)技術の汽水地下水への適用 |
研究概要 ミャンマー、ヤンゴン市ダラでは海水の侵入および飲用可能な水の不足が深刻化しており、汚染水の飲用による下痢の原因となっています。本研究では、地下水の脱塩に容量性脱イオン(CDI:capacitive deionization)技術を適用し、イオン吸収の特性およびエネルギー消費を分析しました。研究の結果、イオン除去効率の高さ、薬品を必要としないこと、電極の再生の容易さ、環境への配慮、エネルギー消費の少なさが実証され、CDIがダラにおける飲用水の問題への対応に適した技術であることが証明されました。社会実装計画は、CDI技術を生かした水事業を設立し、衛生的な飲用水を低コストで豊富かつ安定的に供給するというもので、官民連携(PPP:Public Private Partnership)の取り組みで実現される予定です。 本研究の成果は、海水の侵入による衛生的な飲用水不足の問題を抱える、世界各地のコミュニティでの適用が見込めます(目標3:すべての人に健康と福祉を)。 |
![]() 「バティック産業排水浄化のための火山性土壌吸着剤開発」 ![]() ターゲット3.9 |
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氏名 | Zaenal Abidin |
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所属・ 役職 |
ボゴール農科大学 (Assoc.Prof., Department of Chemistry, Faculty of Mathematics and Natural Sciences) |
国 | インドネシア ![]() |
研究 テーマ |
現地の能力に基づく持続可能な開発に向けた科学および教育:インドネシア製エコバティックを世界へ |
研究概要 2009年にユネスコ世界遺産の認定を受けてから、バティックの生産は大幅に拡大しています。しかしながら、バティックの生産は廃棄物も生み出し、環境へのダメージの原因となっています。こうしたことから、環境に配慮したバティック(エコバティック)の生産に向け、バティック産業の廃棄物管理にイノベーションが求められています。 本研究のイノベーションでは、バティックの生産に伴う廃水問題の解決に向けた、シンプルで費用も低く抑えた手法を家内工業制のバティック産業に提供します。この取り組みでは、風化した軽石を使用します。この素材は現地の土壌で産出されるもので、ジャワ島のバティック生産地域周辺で容易に調達可能です。研究者とバティックの家内工業の連携では、「今ある問題を地元の能力を活用して解決、コミュニティと共創する未来」をコンセプトとしました。本研究では、特に水・空気・土壌の汚染物質の低減または除去、現地の素材を利用した環境配慮型バティック産業の形成による環境保護において、SDGsの各目標の早期達成に貢献します。 |