講演録 1 「少子化時代における子育て支援の意義」
准教授 柴田 悠 氏
質疑応答
質問1
労働時間を短縮すると出生率が上がるロジックをもう1回説明していただけますか。
また、待機児童の解消が出生率に与える影響が小さいようにも思うのですが。
柴田ありがとうございます。非常に大事な点だと思います。これはあくまで先進諸国のデータのパターンを抽出したらこうなったということなので、なぜそういうパターンが見られるのかは、はっきりわからないのです。労働時間が減った国では、他のさまざまな社会経済的な状況が他国と一緒であれば、同時期に出生率が高まる傾向にあるということなのです。ただ、日本での先行研究によれば、夫の労働時間が短い方が、やはり子どもは生まれやすいのです。確かにワークライフバランスの見方で言えば、やはり労働時間が短くなるということは、いろんな面で生活にゆとりができて、恋人間や夫婦間でのコミュニケーションや関係性を築きやすい面があります。また、「もし子どもができても、このくらい家庭の時間を取れるのなら、育児をやっていける」という見通しがつきやすくもなるでしょう。それらが関係して、結婚や出産に結びつきやすいと推測はしています。また、待機児童解消に関して、労働時間短縮や高等教育学費軽減と比べて効果が小さいように見えるのは、「働いている若い人」「大学や専門学校に行っている人」と比べると、「保育を利用したいのに利用できていない親(潜在的を含めた待機児童)」の数が少ないからかもしれません。

質問2
出生率を改善する政策として、「労働時間短縮」「高等教育学費軽減」「待機児童解消」をあげていましたが、これが上位の3つと考えていいのでしょうか。
柴田この3つが効果としてはっきり出てきたので、これらをピックアップしたということです。他のいろいろな要因を見ていますが、この3つ以外にはこれほど大きくはっきりとした効果は見られませんでした。ただ、私が使っているデータにも限界がありますから、別のデータを入れれば別の結果が出るかもしれません。私が入手できる範囲のデータを入れて考えたら、この3つが大きな効果を示していたということです。
質問3
出生率には、現金給付も効果的と思うのですが、それに関して有意なデータはないのでしょうか。
柴田現金給付の代表的なものは児童手当ですが、意外にも、児童手当は出生率にあまり効果がありません。さまざまな研究で、児童手当よりも保育の方が出生率の上昇と関連が強いということが分かっています。子育て期に一時的にお金をもらえることよりも、保育を使えることで自分のキャリアを継続できることのほうが、若い人々にとっては魅力的なのかもしれません。

1978年、東京都生まれ。京都大学総合人間学部卒業、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。京都大学博士(人間・環境学)。専門は社会学、社会保障論。日本学術振興会特別研究員PD、同志社大学政策学部任期付准教授、立命館大学産業社会学部准教授を経て、2016年度より京都大学大学院人間・環境学研究科准教授。2017年5月に双子が生まれ、2018年1月まで育児休業を取得。著書に『子育て支援と経済成長』、『子育て支援が日本を救う――政策効果の統計分析』(社会政策学会賞受賞)など。